人として、音楽家として

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昨日のコンサートにいらしてくださった皆さま、有り難うございました.
 
実はチェリストの松波恵子先生とご一緒させて頂くお話は数年前からありましたが、
ちょうど一年ほど前にようやく今回の企画が決まって昨年末より少しずつ準備を進めて
きました.そうしたこともあって、無事に終えることができ昨夜は久しぶりに熟睡致しました.
 
kawamurafumio_20150627
 

自分のことですが、コンサートそのものを振り返ることはまだしばらくはできないと思います.
なにしろ今回は白寿ホールも初めて、シューベルトも初めて、チェロとのデュオソナタも初めて‥
特に今月に入ってからは一日一日が本当に貴重に感じられ、実際に学ぶこともたくさんありました.
 
ですのでこれら一連のかけがえのない出来事を言葉で纏めることは今の僕にはとても難しいです.
(あ、皆さまの忌憚のないご感想はこのブログのコメント欄にて随時受け付けております、、笑)

 

ところでこの数年、齢のせいかもしれませんが、自分の中ではっきりと心境の変化を感じています.
単なる老化現象の話をしているのではなく、これまでの経験の積み重ねや日常のちょっとした
習慣によって人はこんなに変わることができるのだなぁと身を以て実感しているということです.
 
「仕事が人をつくる」 という言葉がありますが、あったと思いますが、僕は30歳になった頃から
音楽やピアノを通した生涯教育に力を注ぐようになりました.正直20代の頃はそんなことを
少しも考えもしなかったし、今でも時々、僕はどうしてこんな仕事をするようになったのかと
不思議に思いながら日々のレッスンをこなしていることがあります.誤解を恐れずに書くと、
僕はもともと教育はまったく興味がなかったし、ピアニストの何たるかは未だによくわからない
部分が(自分自身の中で)とても多いのです.有り難いことに最近は目の前にあるやるべきことを
自分なりに了解していますから、それらと向き合っているうちに何かが見つかってくるのですが.

 

さて、こんな指導者で頼りないかもしれませんが、ピアノを学ぶ後輩たちに一言アドヴァイス.
 

先に結論から書かせてもらうと、「音楽」 を愉しみたいのであれば何よりも作品に正直にあること.
嘘や虚飾はいけない.言うは易しでこれは今の僕にとっても決して簡単なことではありません.
 
如何にして拍手喝采を浴びるか、聴衆が熱狂するか、先生を唸らせるか‥そうしたことに気を
取られずに勉強や練習に専念することができれば、時間はかかるけれども、やがて作品のほうから
歩み寄ってくることがあります.くどいけれども、これはとても根気がいることだし、みんながみんな
そのようなやり方で目に見える成果を上げているとは僕も思いません.けれども、そもそも目に見える
実績や評価だけでピアノを学ぶに値する人間かどうかを判断することは正しいことなのでしょうか?
 

関係ないかもしれませんが、僕は動物や植物や自然が大好きで、そのあるがままの姿を見ていると
「いやー自分ってなんて取るに足らないんだろう」 と思うことがあります.これも30歳を過ぎてから
ますます強く感じるようになってきました.誤解があるといけないので念のために書きますが、
これは決して自分を卑下(ひげ)しているのではありません.でも人間だけが賢いと思って
ものを見ていると、僕みたいな単純思考は「イコール自分は偉い」と勘違いを起こすのです.
 
だから、音楽に対してもまずは自分がどのように弾くか、どのように聴かせるかを考える前に、
作品のありのままを素直に受け止めて自分自身がそこから何かを感じることに務めることが
とても大切なのではないかと思うのです.人の演奏を真似るのも良いけれど、いずれは
自分が感じられるようにならないと演奏自体に飽きてしまう.逆に言えば、自分が
感じられれば作品が要求していることもわかってくるので愉しさが持続するのです.

 

ついでに、これは余談かもしれず、別にブログに書くことでもないのかもしれませんが、
無闇に人の批判はしないほうが良いと思います.僕は仕事柄、いわゆる 「ダメ出し」を
しないといけない立場にあることが多いです.酷い日は一日10時間以上も演奏に対して文句を
つけています.でも、それは僕の仕事であり、格好よくいえば、演奏芸術を後世に伝えていくために
使命感を持って行っていることです.仕事でなければ僕は他人の演奏にケチをつけることをせずに
自己批判に徹します.僕の周りの音楽家は皆そうやって自分を律し、向上することを怠りません.
 
それから「あ~つまらない」 とか 「おもしろくない」と、なるべく考えすぎないほうが良い.
つまらないとかおもしろくないというのは、自分がそう思い込んでいるだけで、実際のところは
全くそんなことはないんです.これは自分がそれに気が付けるかどうかの問題ですが、例えば
家から学校までの通学路も、ものの見かたによっては宝の山です.それが音楽ならなおさらです.
 
そんなの綺麗ごとだと思うのなら、スマートホンを置いて外の景色をくまなく見てみてください.
ピアノを弾かずに、音を発する装置もない静かな場所で、じっと楽譜を見つめてみてください.

 

以上、終わり.(長かったー!)

 
 

近所の花とキャベツ畑.キャベツは圧巻!(東京とは思えない‥)
 
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オクラの花は午前中しか見られませんがとても綺麗です.
今朝はみんなまとめて収穫できました、めでたしめでたし.
 
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5件のコメント

  1. 昨日は素晴らしい音楽会でございました!
    耳に馴染んだシューベルトの4つの即興曲は 川村さんがおっしゃっている 作品に正直な 嘘 虚飾のない対し方を身をもって示されたような演奏だったと感じました。オーベルマンの谷は そのドラマティックな曲を感動的に演奏されたので、私も含め皆様の心に響いて 休憩に入る前なのに拍手が鳴りやまず リストのコンソレーション3を弾いてくださいましたね。
    松波恵子さんのチェロの心に温かく浸み込む音色も素晴らしいので、カサドの組曲も素敵でしたし、お二人のメンデルスゾーンも息がぴったりで 河村さんが心から楽しそうに演奏されているので とても明るく楽しい作品に魅了されました!
    週末のひととき 素敵な音楽を楽しませていただきまして有難うございました!

  2. こんばんは♪

    昨日は白寿ホールで幸せなひとときを過ごさせて頂きました。

    初めて伺うホール、初めての生のチェロ演奏、初めて聴くチェロとピアノのデュオ・・・。私にとっても今回は初めてずくしの経験となりました。
    川村さんの生のピアノ演奏を聴かせて頂くのも平成24年12月以来でしたので、久しぶりに演奏が聴けるかと思うと当日が楽しみでとても待ち遠しかったです^^

    今回初めて川村さんが演奏するシューベルトを聴きました。
    ピアノの優しさと力強さが感じられる美しい音色で、語り掛けてくるような素敵な演奏でした。
    初めて聴くチェロの音色も弦楽器特有の弦の音が身体にスッと染み入ってくるような感覚を受けました。
    そして、チェロとピアノのデュオもとても素晴らしかったです!
    ピアノの演奏がチェロの良さをさらに引き出しているような素敵なハーモニーでした。

    ピアノにはないチェロの音色と、チェロに寄り添いまたピアノ本来の魅力も感じられるような心地の良いコンサートでした。
    聴きに行くことが出来て良かったです♪アヤ

  3. ☆こんばんは☆

    素晴らしいコンサートでしたね。
    建物に着くとまず、先着順にイス(1階)に座って待機←初めて。

    ブログを読んで…、、
    音楽を愉しみたいのであれば、
    音楽に対して、作品に正直に。
    作品のありのままを素直に受け止めて、そこから何かを感じることが大切。
    それと、
    無闇に人の批判はせずに、自己批判して自分自身を律する。

    会場やコンサートの雰囲気も良くて、
    聴きに行ってよかったな、楽しかったな、と思いながら、
    おウチに帰りました(^_^)♪。。

  4. 川村文雄様

    18年前になりましょうか。日本音楽コンクールで川村文雄さんのサンサーンスが始まるや否や「とてつもない可能性を秘めた人が現れた。」と直感的に大きな期待と不安を抱きました。その後何度か演奏を拝聴する中で、不安が的中し、正直失望したこともあります。川村さんに失望したというより、本物の才能が潰されていく世の中に。しかし小生「この人の才能は他の人たちとは違う、きっと大成するに違いない。」と根拠はないがその後もできる限りコンサートに通い続けて来ました。

    以下は不躾ながら個人的な感想。デビュー十周年以降の成熟振りは毎回期待以上。シューベルトの選曲は果たしてどうかと思ったが、いよいよ高潔。繊細な音作りの中に川村さんらしいあたたかさに満ちた歌心と風格が漂っていた。リストは圧巻。メンデルスゾーンも見事。(チェロの響きとピアノの音色の重なり具合が絶妙でもっと聴きたい)

    享楽的で浅薄な商業音楽に成り下がったクラシックに再び命を吹き込む数少ない若手逸材。これからの活動も大いに楽しみにしています。

  5. A.H. さん
    いらしてくださり有り難うございました!ようやくこの前の演奏を省みようかな?とほのかに思えるようになってきました.でも次のコンサートが近いのできっと忘れた頃に振り返っていると思います、、笑 A.H.さんのコメント、とても嬉しかったです!

    Ayaさん
    有り難うございます.最後に聴かれた時期まで覚えていてくださるなんて感激です.シューベルトの小品はまさに「語りかけてくる」という表現がぴったりですね.ちなみに、僕はシューベルトを演奏する時、聴衆に語りかけるつもりでは弾いてはいません(そんな余裕はないというのが素直な感想ですが‥).おそらくシューベルトの作品には何かを物語る要素がある.でも僕の役割はそれらをできるだけ丁寧に汲み取るところまで.不思議とそこに自分の個人的な感想を付け足す必要性をあまり感じないんですね.今回勉強してみて、それがある意味心地良いなと思いました.

    ちゃまさん
    聴きに行ってよかった、楽しかったと言われるのは素直に嬉しいです.会場やコンサートの雰囲気の良さは僕も感じました.ちゃまさんの今後の成長も楽しみにしています!

    匿名さん
    厳しいご意見を有り難うございます.コメントを拝見して、「あ、自分はまだ『若手』だったのか」と自覚しました.身の引き締まる思いです‥

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