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難聴と共にあること

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     昨日、つくば国際会議場にて開催された日本音楽療法学会学術大会の自主シンポジウム「人工聴覚器と音楽の聴こえ」に、話題提供者として登壇させていただきました。

     今回の登壇は、研究協力員として関わらせていただいている「難聴者音楽感受研究所」からのお声掛けによるものです。
     

     まだ自分の中で整理しきれていないことが多く残ってはいますが、今回の話題提供を通してもっともお伝えしたかったのは、中途難聴は必ずしも音楽を奪い去るものではないということ。そして、難聴との共存こそが僕の「音楽世界」を拡張したということです。

     これは「障害を乗り越えた」、「難聴を克服した」といった文脈で語られる華やかな物語とは対極にあるリアルな実例です。実際、僕は障害を乗り越えたわけでも、難聴を克服したわけでもないのです。むしろそうした美談や「障害受容」という概念に対し今でも違和感を覚えることが少なくありません。なぜなら、それらの言葉が無意識のうちに障害の本質や障害者の存在意義を歪(ゆが)め、ひいては人間理解そのものを単純化してしまうように感じるからです。
     

     聞こえが変わったからこそ、僕はさまざまなチャレンジや模索を重ねてきました。そして他人(ひと)を表層的な属性でより分けず、分野を越えて見境なく学び、約6年の月日を経てようやく「自分でもできること」から「自分にしかできないこと」を思い描けるようになってきました。昨日のシンポジウムでは「中途難聴者の音楽感受と模索」と題し、演奏家として、そして教育者として、今の自分の考えをありのままに正直にお話ししたつもりです。

     
     聞こえのオーソリティーとして日本のオーディオロジーを牽引されてこられた指定討論者の先生方は、事前協議の段階からこのつたないお話にじっくりと耳を傾けてくださり、シンポジウム後にはあたたかいコメントや先々を見据えたアドバイスをいただきました。その真摯な姿勢には人格者としての懐の広さが感じられましたし、いただいたお言葉はこれからの活動を考えるうえで大切な道標になると思います。

     さらに当日は、急遽「ロジャー」と呼ばれるワイヤレスの聴覚補償システムをご用意いただき、最高の聴覚保障環境の中で話題提供に挑むことができました。今の僕にとってこれ以上ない配慮をいただけたことは心から有り難く、この場を借りて感謝申し上げます。
     

     これからもこのような機会を通じて、他者と競うためでも克服するためでもない、純粋に音楽の豊かさと愉しさを享受するために自身の歩みを続けていきたいと思います。そして、同じような境遇にある方々に、少しでも勇気を届けられるような存在でありたいと願っています。
     

     最後に、今回のシンポジウムに関わってくださったすべての皆様に、改めて心より感謝を申し上げます。

     ありがとうございました。

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