文集 もぐら 『音楽家からのメッセージ』 より

 春休みのあわただしさもようやく峠を越えたように感じる今日この頃です.皆さんはお変わりありませんか.僕は先週は桐朋学園の門下生たちが初めて自主的に企画した卒業生を送る会、そして今週は大学の卒業式や謝恩会に出席しました.年を重ねたせいもありますが、いずれも人生における節目のようなものを改めて意識する感慨深い催し物でした.
 

 さて、先日発行された桐朋女子高等学校音楽科の文集 『もぐら』 のインタビュー原稿をこちらに掲載させて頂きます.音楽家を志す高校生向けの内容ですが、できるだけ今の僕の素直な気持ちが伝わるように回答したつもりです.尚、このブログへの掲載については許可を頂いていますが、無断転載はご遠慮ください.

 

平成28年度 文集 もぐら 『音楽科からのメッセージ』 より
 

質問①
先生の音楽に影響を与えた故人の音楽科は誰ですか。

 
ピアニストのアルトゥール・ルービンシュタインとディヌ・リパッティです。
 
僕は田舎の、しかもクラシック音楽とは縁のない家で育ったので、子供の頃は今のように音楽家に出会うチャンスもなければ、さまざまな演奏家の音源を聴き比べるようなこともありませんでした。それでも両親は ― 決して必要のないものまで買い与えるような親ではなかったのですが ― 僕が小さいころから音楽が好きだったこともあって、僕がレコードやCDを欲しがると無条件にそれを買ってくれました。けっきょく、その頃に好んで聴いていたのがルービンシュタインとリパッティの音源でした。
 
‥実を言うとそんな過去のことはすっかり忘れてかれこれ20年以上経っていたのですが、少し前に偶然にもこの2人のピアニストのことを思い出す出来事がありました。そしてその時、僕は彼らの演奏から芸術家としての「内的規範」を学んだのだと確かに感じました。もちろん、僕が勝手に影響を受けたというだけの話で、それ以上でもそれ以下でもないことは言うまでもありません。彼らに比べて僕はあまりにお粗末です。けれども、お粗末はお粗末なりに (誰でも) 芸術的な生き方ができると思いますし、そのような理想に生きる人は皆芸術家だと思っています。
 

質問②
舞台に立つ前に具体的にやっていることはありますか。

 
おそらく(回答として)期待されるような儀式めいたものはこれといってありません。強いて言えば本番当日は基本的に演奏が終わるまではあまり食べないことが多いです。コンサートによっては楽屋に魅惑的な差し入れが並ぶこともあるのですが、少なくとも演奏の直前は手を付けないようにしています。
 

質問③今のコンクール制度に疑問を感じている点はありますか。
 
とても難しい質問です。もちろん、コンクールのあり方にまったく疑問を感じないと言えば嘘になります。ただ、ある問題を改善するためにシステムを変えたとしても、参加者も含めそれに関わる人たちの意識や心構えが変わらなければ、また別の問題が出てくるように思います。質問とは関係ありませんが、今の世の中にはそうした問題がうんと増えた気がしますね。
 
一方、昔も今も変わらないのは、なまじコンクールで成功したがために自分を見失う人がいたかと思えば、逆に失敗したことによって思い直し、向上していく人がいるということです。質問の回答にはなりませんが、他の競技と違って音楽コンクールのユニークなところは、「コンクールの結果がすべてではない」ということかもしれません。
 

質問④
現代社会において音楽家の社会的役割はどうあるべきだと思いますか。

 
音楽家と一口に言っても、立場や仕事の内容は人それぞれ異なりますので‥正直なところなんとも言えません。社会的役割についても同じことが言えます。僕には僕の見ている社会があり、皆さんの一人ひとりに、やはり皆さん自身の社会がある ― 僕はそう考えています。
 
ですから、当事者(現代社会に生きる音楽家)として、自分の社会的役割を模索するのであれば、まずは身近な人たちとの関わりを大切にすることです。そして、その関係性の中から自身に課せられた役割を自覚し、精一杯を尽くしていく。そうして試行錯誤しながら、その時その時の自分なりの答えを見つけていくしかないと思います。
 

質問⑤
これからの音楽界を担う若者に期待することはなんですか。

 
皆さんの音楽的才能は本当にすばらしいといつも感心しています。僕自身は(高校生の頃は)もっとちゃらんぽらんでしたから。少なくとも、音楽的には皆さんそのまま邁進していってほしいと思います。その上で、先輩として皆さんに期待するのは、早く 「大人」 になるということです。ここでの大人とは、職を得て、家族を養えるだけのお金を稼ぐ人のことではありません。
 
どんなに厳しい困難に直面しても、愚図ることなく、自己の内面としっかり向き合って、ものの見方や行動を変えていける ― それが本当の大人だと僕は思っています。今の時代は若いというだけでチヤホヤされます。才能があって、条件さえそろえば、早くから注目されることも珍しくないでしょう。しかし、いつまでたっても大人になれない人は、けっきょく才能があるだけの若者で終わってしまいます。僕がそのことに気が付いたのは恥ずかしながら30歳を過ぎてからですが、皆さんが本気で大人になろうと覚悟を決めれば、明日からでも大人になれます。僕はそれを期待しています。
 
終わり

 

近所のブロック塀のカタバミ、こんなに見事に咲いているのは初めて見たのでとても驚きました.
 
kawkamurafumio_20190317a

 
 

You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed. You can leave a response, or trackback from your own site.

2 Comments »

 
  • ちゃま より:

    ☆こんばんは☆

    私はメイッコの卒園式(謝恩会)で、
    幼稚園から頼まれた歌のピアノ伴奏を楽しんで弾いてきました(^^)d。。

    ところで、、
    「もぐら」というのは!?
    名前の由来などはあるのですか?
    面白い名前の文集ですね。

  • 中野 より:

    再び失礼致します。実は先生の動画を!音色を!確認することが出来ました!その音色は、上品な優しい音色でした!もう、これだけで私は満足です!もちろん、先生のブログも参考になります!ありがとうございます!

 

コメントを残す

XHTML: You can use these tags: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong> <img localsrc="" alt="">