ゴールデンウィーク、皆さま如何お過ごしでしょうか.
僕は昨夜遅くに志賀高原の合宿から一足先に帰京しました.こちらで行われている東京工業大学の合宿に参加せて頂くのはこれで3度目になりますが、今回はお天気にも恵まれてとても幸運でした.
写真だとわかりづらいのですが、1枚目はダケカンバで2枚は白樺
さて、音楽を続けていく中で、学ぶ意欲が自身の成長にとって不可欠であることは言うまでもありません.言うまでもない、つまり当たり前のことなのですが、その当たり前が実際なまなかではないこともあって、後進のためにも僕の思うところを書いてみようと思います.
僕は現在、10代の後半から20代前半の学生たちを主に指導しています.その大半は将来的に何らかの形で音楽と関わっていくことを希望しています.そこで僕が度々感じることは、ピアノや音楽の道を志すこの世代の学生たちは、自分の教え子に限らず、今一度これまでの学習のあり方を根本から見直すべきではないかということです.
一般的に、小・中学生あたりまでは自分の親や先生に褒めてもらったり、コンクールなどで他人から認めてもらうことが勉強のモチベーションに繋がることが多いと思います.また、なんとなく周りの友達がやっているから‥というのも音楽を学ぶきっかけや理由になり得ます.それはある意味とても自然なことだし、結果的に学習が捗ったりピアノを弾くことが楽しくなるのであれば、大いに結構なことだと思っています.僕自身もそうでしたが、小さいころはなんだかんだで身近な人たちとの関わり合いが人生の大半を占めていますし、そもそもそのような年頃には自身を取り巻く社会のことなど普通は気にも留めませんから.
けれども今は時代が変わって、まだ自分でものを考える力が発達していないころからやれ受験だとかその先の就職だと躍起になっている子たちも少なからずいるようです.本題ではないのでここでは深く掘り下げることはしませんが、敢えて僕が言っておきたいのは、自分が社会の一員として何をなすべきか、そのうえで将来的にどんな人間になりたいのか、そうしたことをきちんと考えられない年齢の子どもたちに対して、例えば 「音楽とはなんぞや」、 「人生とはなんぞや」 と考えろと言っても土台無理な話だということです.もっとも、だからといって即物的な成果主義に走って欲しくはないのですが‥
で、話を戻すと、僕が主に指導をしている学生たちは、今まさにそうしたことを自らに問いかけていかなければならないところに来ています.少なくとも年齢的には、自分の人生に責任を持ち、音楽を学ぶということがどういうことかを自覚を持って考えられなければいけない.
そこで、余計なお世話かもしれませんが、僕がちょっと心配しているのは、自らの意思で音楽と向き合いながら自我を確立していくこの大切な時期に、音楽をする意義を見つけることができずに宙ぶらりんになってしまったり、本当の気持ちを偽ってフェードアウトしていく人が存外多いということです.
もっとも、先々の仕事や収入、社会的ポジションを考えると夜も眠れない‥そのような不安に駆られることは僕も重々承知しています.でも、だからといって手堅い道を選択することでその人が幸せになれるという保証はどこにもありません.さらに付け加えるなら、職業音楽家としての地位を得てお金を稼いでいる人たちの中には、音楽そのものを心から愛していない人たちもいます.奇妙に感じられるかもしれませんが、社会とはそういうものです.
誤解をしてほしくないのは、僕はそういう方々を責めるつもりでこれを書いているのではありません.そうではなくて、将来のある学生たちには、これから自分で自分の人生の舵を取っていくにあたって、音楽と共にどのように歩んでいきたいのかをできるだけ具体的に、真剣に考えて欲しいのです.そのためにも広く世の中を見渡し、好き嫌いや損得勘定を抜きに、できる限り多くの人たちと交流を深めて欲しい.もしかしたらその分のわずらわしさや気苦労はあるかもしれませんが、きっと、自分がどんなふうに生きていきたいのかがそこから見えてくると思います.
今の僕が恵まれていると感じるのは、自分の周りにプロ・アマ問わず 「学ぶ意欲」 に溢れた音楽家がとても多いことです.もちろん、ご縁もありますが、それだけではありません.お互いに刺激し合えることに純粋に喜びを感じて、それがまた音楽をするモチベーションになることを知っているからこそ同じような人間が集まっているのだと思います.
個人的な話になりますが、東工大オケをはじめとするアマチュアの学生オーケストラ、市民オーケストラはその良い例です.こう言っては失礼かもしれませんが、彼らは 「本業」 ではないにもかかわらず、音楽を学ぶことに対して驚くほど貪欲で、前向きで、とても謙虚です.当然ながら僕もそこから多くの刺激を受けていますし、今でも学ぶことが尽きません.大袈裟でもなんでもなく、これは僕にとっては立派な財産の一つだと思っています.
これから音楽を志す人たち、とりわけ思春期を過ぎて専門的な勉強をしている学生たちには、普段から自発的で積極的なモチベーションを維持するために自身が何をすべきかを改めて考えてもらいたいと思います.そのためにも、世代や立場を越えた幅広い交流の場を持つことは欠かせません.個人にできることは所詮は限られていますが、互いに刺激し合える仲間が集まれば結構おもしろいことができますからね.いずれにせよ学ぶ意欲を持ち続けることができれば音楽は続けるほどに愉しくなります.これは身をもって経験していることなので間違いありません、、笑
さて、明日からまた学校が始まります.気を引き締めて頑張ります.